2025年末あたりから、にわかによく聞くようになった「アフォーダブル住宅」ということば。
直訳すると「手頃な価格の住宅」を意味し、中所得者向け住宅を指す「affordable housing」の日本語版です。
以前はあまり聞かなかった言葉ですが、今後の建設・不動産業界において、重要なキーワードになっていくかもしれません。
そこで本日は、この「アフォーダブル住宅」について整理してみたいと思います。
「アフォーダブル住宅」のルーツ?:2021年頃から
日本でこの言葉が使われるようになったのは、2021年頃からです。
アメリカの大手IT企業が集積する地域で、住宅価格や家賃が高騰し、住宅難が社会問題化していることが日本でも話題になりました。
こうした地域で、企業イメージの改善や従業員の住環境確保を目的に「手頃な価格の住宅」の整備が進められていることが、日本のメディアでも取り上げられました。
とはいえ、この時点では「アフォーダブル住宅」という言葉自体が定着していたわけではなく、あくまで「手頃な価格の住宅」という文脈で語られていました。
手頃な価格の住宅から「アフォーダブル住宅」へ:2024年都知事選
この言葉が日本で明確に使われるようになったのは、2024年6月頃です。
小池百合子都知事が次期都知事選に向けた公約の中で、物価高対策の一環として「アフォーダブル住宅」という言葉を用い、手頃な家賃の住宅供給を掲げました。
ここから徐々に「アフォーダブル住宅」という表現がメディアや政策の場で使われるようになっていきます。
「アフォーダブル住宅」ファンド立ち上げ:東京都2025年度予算案
都知事選に勝利した後も、この言葉が使われる場面は増えていきます。
2025年1月に発表された2025年度予算案では、「アフォーダブル住宅」の供給事業として100億円を計上することが発表されました。
この発表をきっかけに、「誰を対象とする住宅なのか」「公的資金として妥当な金額なのか」「海外の大都市ではどのように運用されているのか」といった議論が活発になり、多くのメディアで取り上げられるようになります。
実際に「アフォーダブル」とはどれくらい?
「手頃な家賃」と言われても、どの程度がアフォーダブルなのかは、しばらく明確ではありませんでした。
2025年5月、6月の東京都議会議員選挙に向けて、各党が住宅政策を発表。
すべての党が、家賃支援・規制緩和・住宅供給など、何らかの住宅対策を掲げました。
その中で、公明党は「市場価格の6割」での提供を目指す「アフォーダブル住宅」に言及しています。
また同時期、東京都は都と民間がそれぞれ100億円ずつ拠出する官民ファンドを形成し、空き家や中古物件を改修して、相場の8割程度の家賃で貸し出す計画を発表しました。
このあたりから、「市場価格より2割程度安ければ、アフォーダブル住宅と言えるのではないか」という共通認識が広がっていきます。
ファンドだけでは難しそう
都議会議員選挙後も住宅価格の高騰は続き、「マンション建築費が過去最高を更新」といったニュースが目立つようになります。
この頃から、ファンドによる支援だけでは限界があり、東京都は容積率など建築基準の規制緩和を通じて、民間によるアフォーダブル住宅の供給を模索している、という話も聞かれるようになりました。
2025年11月〜12月:官民ファンドの詳細発表
2025年11月、官民合わせて200億円規模のファンドの運営事業者候補が発表され、2026年度から「相場の2割安程度の家賃で約300戸」を供給することが決まりました。
また、入居者については「子育て世帯」を優先する方針も示されています。
これを受けて、日本国内ですでに子育て世帯向けの「アフォーダブル住宅」を展開している事業者の事例や、ニューヨーク・ロンドンなど海外都市の取り組みを紹介する記事も増えていきました。
とはいえ、供給戸数は約300戸。
建設業や不動産業全体に与える影響は限定的だと見られていました。
2026年1月:容積率緩和の新制度導入発表
2026年に入り、アフォーダブル住宅の整備に向けた容積率緩和制度の導入が発表されました。
これは2026年度中の導入予定とされており、今後の詳細が注目されています。
(※容積率とは、敷地面積に対してどれだけの延べ床面積を建てられるかを示す指標です)
その後、千代田区は独自の支援策を発表。
2026年度に、既存マンションの空き住戸のリノベーションや、築年数の古い中小規模オフィスビルを住宅に転用する費用として、最大1,000万円を補助する方針を示し、まずは3,000万円を26年度予算に計上しました。
まとめてみると
日本で「アフォーダブル住宅」という言葉が使われ始めたのは、2024年からと比較的新しいことばです。
昨年末以降、ファンド設立や選挙公約の実現、そして今年に入ってからの容積率緩和や補助制度の発表を経て、ようやく「具体的な制度」として輪郭が見え始めた段階だと言えるでしょう。
一方で、ファンドによる供給は数百戸規模にとどまり、東京全体の住宅問題を解決するには明らかに足りません。
そこで東京都が次の一手として打ち出したのが、民間の事業性を前提とした容積率緩和という仕組みです。
今後は、空き住戸や築古ビルの改修・用途転用に対する補助も本格化していく可能性があります。
「転用」「改修」という現実的な選択肢も
千代田区が打ち出した、空き住戸改修やオフィスビルからの住宅転用支援は、非常に現実的なアプローチだと感じます。
都心には、立地は良いものの使われていない建物や、住宅として使うには大規模な改修が必要な建物が少なからず存在します。
新築を一から建てるよりも、解体せずに構造を活かし、設備や間取りを最適化する方が、結果として「手頃な価格の住宅」に近づくケースもあります。
おわりに
日本における「アフォーダブル住宅」は、まだ定義も制度も発展途上です。
しかし、「容積率緩和」「転用・改修支援」「官民ファンド」といった動きを見る限り、東京都は本気で仕組みを作ろうとしているように見えます。
この流れは今後、大都市近郊の他の都市にも広がっていくかもしれません。
問われるのは、この制度を実際の建物として形にし、継続的に運用できるかどうか。
建設と不動産の現場にとって、確実に重要度が増しているテーマだと感じています。
