ここ数年、都心部を中心に「アパートメントホテル」と呼ばれる宿泊施設の開業が相次いでいます。
小規模なものはもちろん、東急のThe Apartment Hotel by styloや星野リゾートのOMO5横浜馬車道by星野リゾートなど、業界大手が開発・運営する比較的大規模な施設も増えているようです。
「アパートメントホテル」とは、客室内にキッチンや洗濯機、調理器具といった、生活の場であるいわゆるアパートのような設備を備え、数日から数週間の滞在を前提としたホテルのことを指します。
欧米では一般的だった宿泊スタイル
もともとは、欧米で長期出張者の増加に伴って普及した宿泊形態です。
思えば私自身も、これまでイタリア、フランス、ドイツなどで、こうしたホテルに何度も泊まったことがあります。
何泊もすると外食に疲れてしまいますし、ホテルの朝食時間に合わせて準備をしなくてはいけないのも地味に疲れます。
朝も夜も、部屋でゆっくり過ごせるのは大きな魅力です。
また、現地のスーパーマーケットというのはなかなか興味深いものです。
食材を買って調理してみたり、現地ならではのレトルト食品やお惣菜を、部屋で楽しめるのも良い体験になります。
「一人になれる時間」があること
特に「アパートメントホテルの恩恵」を強く感じたのは、10年ほど前、イタリア・フィレンツェにグループで滞在したときだったように思います。
旅行期間が長くなると外食続きで疲れてしまい、普段慣れ親しんだ味が恋しくなることもあります。
そして何より、毎日ずっと誰かと一緒にいるのも、意外と疲れるものです。
夜、一人になれる時間があるというのは、思っている以上にありがたいものでした。
最近の旅行では「外食をしない」選択
改めて振り返ってみると、昨年の2回の海外旅行では、夕食を一度も外で取らなかったことに気づきました。
同行者が体調を崩したこともありましたが、レストランに行くよりも、テイクアウトしたものを部屋でゆっくり食べたいという気持ちが強かったのだと思います。
私自身、日頃から夜に外食をすることがあまりない、という生活スタイルの影響もあるかもしれません。
日本でも確実に増えてきた実感
昨年の夏休みには、栃木県内のアパートメントホテルに滞在しました。
ホテルの近所を少し散歩する以外は特に何もせず、食事も部屋でゆっくり。
そのホテル以外にも検討していた候補には、キッチン付きの客室を持つ施設が多く、日本でも時代が変わってきているのかなと肌で感じました。
思えば、2024年のGoogle Pixel 9のCMでもこんなシーンがありました。
旅行先のフィンランドのスーパーマーケットで「この食材でできるフィンランド料理は?」とGeminiに聞き、「ロヒケイット」というスープを作ることにします。
旅行先で現地の料理をする時代なのだなと少しびっくりしたのを覚えています。
訪日外国人の滞在スタイルの変化
日本でアパートメントホテルが増えている背景には、やはり訪日外国人の増加があるように思います。
特に長期間滞在する場合には、短時間で観光地を巡るよりも、1〜2週間、同じ場所に家族やグループでゆっくり滞在したい、そんな訪日客が増えているようです。
家族旅行の場合でも、赤ちゃんの頃から親子別の部屋で寝る文化圏では、「親と子どもで部屋を分けたい」という要望は決して珍しくありません。
こうしたニーズは、年々はっきりしてきているように感じます。
一方で日本では、都市部はビジネスホテル中心、旅館となると食事付きが前提となり、こうした滞在スタイルに合わないケースも多くありました。
なぜ今、アパートメントホテルなのか
一般的なホテルと比べると、アパートメントホテルにはいくつかの特徴があります。
・連泊前提のため清掃頻度が少ない
・レストランやルームサービスを最小限にできる
・少人数での運営が可能
・「民泊より安心」「ホテルより自由」という中間的な立ち位置
宿泊者にとっては、欲しくないサービスが付かない分、料金は比較的割安に。
運営側にとっては、人手不足の中でも回しやすい。
非常に合理的に、今の需要とマッチした仕組みだと感じます。
事業者・投資家目線で見ると何が違うか
では、もしこうしたアパートメントホテルを始めるとしたら。
投資家目線で考えてみます。
まず重視すべきは立地です。
・都心から近いこと
・駅から近いこと
・近隣にレストランや商業施設があること
・古くからの街並みなど、地域性を楽しめる場所であること
こうした特性は、都市部の狭小地とも相性が良いと感じています。
建物について考えると、通常の共同住宅と同レベルの水回り設備や間取りが求められます。
これはつまり、将来的に賃貸住宅へ用途転換しやすいということでもあります。
逆に、立地のよい場所にすでに賃貸住宅を所有している場合、賃貸アパートからアパートメントホテルへ用途転換するということも可能かもしれません。
宿泊需要は社会情勢や規制によって変化します。
だからこそ、用途転換のしやすさや出口戦略を含めて考えられる建築であるかどうかが、中長期的な安定性を左右するポイントになっていきそうです。
ブランド力と立地が、これまで以上に重要に
一方で課題もあります。
アパートメントホテルは、最終的には「立地」の影響を強く受けます。
昨今、弊社へのお問い合わせでは旅館案件がトップになっており、今後もこの分野への参入は増えていきそうです。
競合が増えてくると、立地に加えて「デザイン」や「ブランド」といった要素による差別化がより重要になってきそうです。
大手や実績ある運営会社が参入しているのも、この点を強く意識しているからだと感じます。
これからアパートメントホテルを計画する場合には、
・どの層を想定するのか(訪日客向けか、国内向けか)
・何泊以上の滞在を主軸にするのか
・将来、用途転換できる構成にしておくか
こうした点を、最初から建築計画に落とし込むことが重要になりそうです。
投資の世界でも注目が高まる
実は、アパートメントホテルの人気は不動産や建設、宿泊の分野にとどまらず、不動産ファンドや機関投資家などの注目も集めているようです。
2025年11月7日の『日本経済新聞』にも「投資対象としても注目安定した収益期待」という記事で、アパートメントホテルが取り上げられていました。
不動産鑑定のティーマックス(東京・千代田)によると、J-REIT(不動産投資信託)の取得実績は2025年1~8月に570億円と、23年通期と比べて7倍の規模
大規模ホテルとは必要な設備が異なり、狭い土地でも運用が可能。
これまでであれば単身者向けアパートしか選択肢がなかったような用地でも開業が可能であることも開発を押し上げている要因のようです。
一般的な家賃よりは高く設定でき、運営コストも低い。
安定した収益を上げやすく、将来は共同住宅としての転用もしやすい。
まさに今、注目すべき投資対象といえます。
民泊規制と「受け皿」としての役割も
中長期滞在は、これまで民泊施設が一定の役割を担ってきました。
しかし、これまでもお伝えしてきた通り、住民とのトラブルなどを背景に、都市部を中心に規制強化の動きが広がっています。
こうした状況のなかで、法制度の枠組みの中で運営されるアパートメントホテルは、中長期滞在ニーズの現実的な受け皿として、今後さらに存在感を高めていく可能性がありそうです。
おわりに
アパートメントホテルの増加は、一時的なブームというより、日本でも「滞在の価値観そのものが変わってきている」ことの表れだと感じます。
それに加えて「投資リスクの低さ」という観点からも選ばれやすくなってきているようです。
今後の不動産投資では、「建てられるか」ではなく、「どう使われ、どう運営され、将来どう活用し直せるのか」という視点がますます重要になってきそうです。
