2014年、民泊仲介サイトAirbnb(エアービーアンドビー)が日本に進出。
2018年6月には、「住宅宿泊事業法」、いわゆる「民泊新法」が施行され、届出や登録、一定の措置などが必要となりました。
しかしながら、特に訪日客の大幅な増加に伴う需要は引き続き旺盛で、現在は、法令を遵守した形で運営される民泊も増えてきました。
不動産投資の観点からもかなり脚光を浴びていた節があります。
あれから10年以上。
昨今、この民泊制度が大きな変化の兆しを見せているようです。
民泊は「広げる時代」から「制限する時代」へ
2025年、一部の自治体を中心に、民泊規制強化の条例改正案の可決が相次ぎました。
こうした変化は、主にゴミ問題や騒音といった「住民からの苦情」が増加したという側面が大きかったようです。
規制は強くなったものの、様々な形で、民泊営業自体は継続が可能となっています。
いわゆる「民泊新法」では、届出をした住宅は年間180日まで営業できます。
これに加えて、地域によっては、自治体による上乗せ規制も存在しています。
たとえば、営業できる曜日を制限する、住居専用地域では営業日数を短くする、管理者の常駐や近隣説明を求める、などです。
自治体が民泊を実質禁止できる可能性
しかし、2026年6月16日、衝撃的な記事が日本経済新聞に掲載されました。
民泊営業を自治体が実質禁止可能に 観光庁通知へ、トラブル増で転換 – 日本経済新聞観光庁は訪日客による騒音やゴミ出しのマナー違反などのトラブルの増加を踏まえ、自治体が民泊の営業を実質的に禁止できるようにすwww.nikkei.com
これまで観光庁は、民泊の営業上限を「0日」とするのは認めていませんでした。
しかし今後は、自治体が民泊の営業上限を「0日」と設定することも可能になる見込みです。
つまり、実質的に民泊を禁止できるようになるかもしれません。
東京・大阪・京都で進む規制強化
実際に2025年以降、多くの自治体で規制の動きが強まっています。
東京都台東区では、管理者が常駐しない届出住宅について、月曜日正午から土曜日正午までの営業を制限しています。
あわせて、近隣住民や学校等への事前周知、苦情への30分以内の対応、廃棄物の適正処理なども求めています。
東京都墨田区でも、令和8年4月1日からは住宅宿泊事業のガイドラインを改正し、令和8年6月1日には業務改善命令、業務停止命令、事業廃止命令等に関する処分基準も定めています。
東京都豊島区も住宅宿泊事業に関する条例を改正し、令和7年12月15日から施行しています。
区のページでは、条例や施行細則、検討会資料などが公表されており、民泊規制が一時的な話ではなく、制度として見直されていることがわかります。
大阪府大阪市では、特区民泊の新規受付を令和8年5月29日で終了しました。
既に認定を受けている施設は従来どおり営業可能とされていますが、新規の受付は止まります。
大阪はインバウンド需要が非常に大きい地域でもあります。
ここで新設停止という判断がされたことは象徴的です。
京都府京都市でも、民泊の規制強化は大きなテーマになっています。
京都市はすでに、住居専用地域における住宅宿泊事業の営業期間を原則として1月15日正午から3月16日正午までに制限しています。
また、2026年1月の市長記者会見では、いわゆる民泊禁止エリアの設定についても「排除せずに検討したい」とまで述べています。
こうして見ると、東京のみならず、大阪、京都という大都市・観光都市で、同時多発的に見直しが進んでいるようです。
「旅館業法なら大丈夫」でもなくなってきた
そしてもうひとつ重要なのが、「民泊新法を避けて、旅館業法で営業する」という流れにも、国や自治体の目が向き始めていることです。
民泊新法には年間180日という営業日数の上限があります。
一方、旅館業法上のホテル、旅館、簡易宿所には、民泊新法のような180日制限はありません。
そのため、マンションの一室や戸建てを旅館業として登録し、通年営業するケースが増えてきました。
特に東京都心では、マンションの一室をホテルとして運用する宿泊施設がかなり増えているようです。
マンションの一室であっても、旅館業法上で営業するため、180日の制限などもありません。
結果、いわゆる「民泊規制の抜け穴」となってきている実情もあります。
そこで、東京23区は旅館やホテルへの規制を強め始めています。
葛飾区と墨田区は4月、条例改正により旅館業法の新たな施設で営業中のスタッフ常駐を義務化。
千代田区では7月から新たに営業するホテルや旅館の客室延べ床面積を計200平方メートル以上にするよう求めています。
江東区では7月から新施設にスタッフ常駐が必要に。
目黒区も26年秋をめどに条例の改正を予定しています。
また、厚生労働省と国土交通省は令和8年5月28日付で、旅館業の許可時における建築基準法への適合確認を徹底するよう通知しました。
住宅や共同住宅をホテル・旅館・簡易宿所へ用途変更する場合、200㎡を超えるものは用途変更の確認済証が必要。
200㎡以下で建築確認手続きが不要な場合でも、建築基準関係規定に適合している旨の建築士による証明書を求める内容となりました。
これまでのように、「小規模だから大丈夫」「古い戸建てでも少し直せば宿泊施設にできる」といった感覚では、通じなくなっていく可能性が高いです。
住宅を宿泊施設に変えるということ
住宅として使う建物と、宿泊施設として不特定多数の人が使う建物では、求められる安全性が違います。
避難経路、非常用照明、消防設備、用途地域、接道、構造、防火、近隣対応。
建物そのものが古ければ、現行法規に適合しているかどうかの確認、それに伴う改修工事も簡単ではありません。
特に、いわゆる空き家や古家を民泊に転用する場合、表面的な内装リフォームだけで済むとは限りません。
むしろ、建築基準法や消防法、旅館業法、自治体条例をひとつずつ確認していくと、当初想定していたよりも大きな工事や手続きが必要になる可能性が高いです。
利回りより先に「営業し続けられるか」
不動産投資として見ると、民泊はたしかに魅力的に見えることがあります。
通常の賃貸よりも高い収益が見込めますし、インバウンド需要も、当面は底堅いように見えます。
空き家や古い建物の活用にもなります。
そうした意味では、民泊という選択肢そのものが悪いわけではありません。
ただし、これから民泊を検討する場合、最初に確認すべきなのは想定利回りではなく、その物件で本当に営業できるのか、収益を生み続けられるのかという点です。
住宅宿泊事業として届出ができるのか。
自治体の条例で営業日数やエリアの制限はないのか。
旅館業法で営業する場合、建築基準法や消防法に適合できるのか。
マンションの場合、管理規約で禁止されていないか。
近隣対応や緊急時対応を誰が担うのか。
そして、今後の条例改正にも対応ができるのか。
今現在は営業できたとしても、その後の条例改正によって営業日数が減る可能性もあります。
また、建築基準法や消防法への適合を確認した結果、想定以上の改修工事が必要になることもあります。
場合によっては、改修だけでは済まないこともあるかもしれません。
訪日客は今後も増えていくでしょうし、ホテルだけでは受け皿が足りない地域もあります。
空き家や古い建物を活用するという意味でも、民泊には一定の可能性があります。
ただし、これから残っていくのは、制度の隙間を狙った民泊や旅館ではなく、建物として安全で、地域と折り合いがつき、管理体制の整った宿泊施設なのだと思います。
民泊は「地域と建物を読む事業」へ
この観点から見てみると、いわゆる「古い空き家」は、民泊投資の対象として以前より難しくなってくるかもしれません。
もちろん、古い建物だから民泊に向かない、ということではありません。
立地がよく、建物の状態も悪くなく、法規や消防、近隣対応まで含めてきちんと整えられるのであれば、宿泊施設として活用できる可能性はあります。
ただし、単に「安く買える空き家だから」「少し内装を直せば泊まれるから」という理由だけで進めるには、リスクが大きくなってきています。
必要になるのは、物件価格だけではありません。
建築基準法や消防法への適合確認、用途変更の可否、自治体条例、近隣対応、管理体制、そして将来の規制変更への備え等。
そこまで含めて考えると、民泊はもはや「手軽に始められる不動産投資」ではなくなりつつあります。
民泊そのものが終わるわけではありません。
むしろ、訪日客の増加や空き家活用という意味では、今後も必要とされる場面はあるはずです。
ただ、これから残っていくのは、制度の隙間を狙った民泊ではなく、建物として安全で、地域と折り合いがつき、きちんと管理される宿泊施設なのかもしれません。
今回の規制強化の流れは、その転換点かもしれません。
noteにも掲載している本記事が、「先週もっとも多く読まれた記事のひとつ」に選ばれました。
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