世界的な脱炭素の流れの中、日本でも建築分野での環境負荷を見える化する動きが進んでいます。
世界のセクター別の二酸化炭素排出量(2023年調査)は、建築物関係でなんと37%、そのうち新築建築物に係る排出量は10%とかなり大きいことが明らかになっています。

そこで、国土交通省より、新たに建てる建築物の「LCA(ライフサイクルアセスメント)」制度が2028年度から導入されることが発表されました。

これまで「建ててからの省エネ」だけが重視されてきた建築物も、今後は「建てる前から壊すまで」すべての段階のCO2排出量が評価対象になります。これが「建築物LCA」です。

2025年6月頃から集中的な議論が開始とのことで、制度の詳細についてはまだ決まっていませんが、今現在わかっていることについてまとめます。

国土交通省の発表内容

国は今後、建築物のライフサイクル全体でCO2排出量を可視化・低減していく方針を明確に示しました。

発表内容は以下のとおりです:『建築物におけるLCAの推進について』

一般的にLCAとは

そもそもLCAとは?

国立環境研究所によると、次のように説明されています。

ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)とは、ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル)又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法である。

https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=57

例えば「生産段階で〇〇%二酸化炭素削減!」といっても、実際の使用に際して、これまでの製品よりもたくさん二酸化炭素を排出したり、使用中は「エコな商品」と言えるものでも、廃棄処分に過大な環境負荷をかける商品なども多く存在していました。

そこで、資源採取の段階から廃棄までトータルで考えて環境負荷の少ない商品・サービスを選べるようにしよう、というのが目的のようです。

そういうわけでこれまでの文脈では、ひと足先に、主に自動車や脱炭素を掲げた身の回りの商品など、産業分野で多く語られていたように思います。

建築物LCAとは

今回、問題になるのが「建築物LCA」です。

現在の「建築物省エネ法」では、主に建物の使用段階でのエネルギー消費削減を目的としてきました。
つまり、建物使用中のエネルギー消費量(電気代や水道代などの光熱費)を減らそう!というものです。

これまでエネルギー効率化が進んだことで、使用時の省エネ効果の改善はある程度見えてきた一方で、建設段階や資材由来の排出量が無視できなくなってきたので、建築分野でもLCAの導入が求められるようになってきたのかもしれません。

今回の「建築物LCA」では「原材料の調達」から「解体」・「廃棄物の処理」までと、原料の製造と建築、メンテナンス費用、解体の段階も問題になります。
建物使用中には、エネルギー消費量だけではなく、メンテナンスの費用なども問題にします。
建物が生まれる前から処分されるまで、トータルに二酸化炭素排出量に換算して評価し、より環境負荷の小さい工法を選択しやすくしよう、というものです。

https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001885288.pdf

上記の図にもあるように、これまでの「省エネ法」とは全く違う部分も対象になるということですね。

対象になる建築物は?

国土交通省の資料によると「規模・用途等を絞って制度を開始。その後対象拡大を検討」とのことです。

2025年6月1日の『日本経済新聞』によると以下のとおりです。

制度の導入当初は一定規模以上のオフィス・商業ビルなど、住宅ではない建物を対象とすることを想定する。【 …】ルールに基づいてCO2を算出した建物に対して国の補助などを検討する。

「建築物のCO2排出量、建設から解体まで算出要請 国交省28年度に」、『日本経済新聞』、2025年6月1日

しばらくは個人の住宅は対象外となりそうですが、各国の流れを見てみると、店舗やオフィス、集合住宅などはいずれ対象となるかもしれません。

また、義務化の有無と補助金額の規模も気になるところです。

メンテナンス費用も大切

アイ建設はこれまで、建物のメンテナンス費用や木造住宅の炭素放出量や炭素固定なども積極的にアピールしてきたのですが、なかなか建設費用以外は注目してもらえず、もどかしい思いをすることも多くありました。

アイ建設の「木造パンフレット」にも記載しているのですが「材料製造時の炭素放出量は、木造住宅で5.1炭素トン、鉄筋コンクリート住宅で21.8炭素トン(林野庁『森林・林業白書』より)」となっており、木造住宅では炭素放出量を4分の1以下に抑えることが可能です。

とはいえ、「木造は材料製造段階でも解体段階でも環境に優しい」という人もいれば、「スチールハウスのスチールはリサイクルされるし軽いので輸送時の環境負荷をかけにくい」という人、「RC造は建設時のCO2排出量は多いけれど数百年使うと思えばこちらの方が良い」という人 …などなど皆様々な意見があります。

こうした議論が割れる背景には「どれくらいの期間使うことを考えるのか」や「リサイクル率の見込みの違い」といった前提条件の違いもあります。

今後はこうした点も標準化が進むことが期待されています。

まとめ

これからの建物選び・設計は「トータルの環境負荷」を意識する時代へ。

2028年度から始まる予定の「建築物LCA」制度は、建物の環境負荷を「使っているときの光熱費」ではなく、「建てる前から壊した後まで」まるごと見て評価しようという新しいルールです。

最初は大きめのオフィスビルや商業施設が対象になりそうですが、将来的には集合住宅や店舗などにも広がっていくかもしれません。

まだ詳しいことは決まっていませんが、これからの議論の行方を注視していきたいと思います!