「銀行」と聞いてどんな建物をイメージしますか?
大きいガラスと太い柱の四角い建物?古くは煉瓦造りの重厚な建物?それとも …?

Google検索で「銀行 建物」と入力すると「立派」「頑丈」などなどの文言が並びます。
銀行の建物に求められるのは、まずは地震や火災に強い堅牢さ。
金庫を預かるセキュリティー対策として、物理的にも心理的にも作用する厳重さ。
そして威厳と格式、信頼感も示さなければなりません。

そんな銀行にも、木造化の波が来ていることをご存知でしたか?

金融業界に木造化の波

数年前から、金融機関のオフィスが入る建物を木造にするという動きがありました。
例えば、2023年にグッドデザイン賞を受賞したのが「TDテラス宇都宮(栃木県宇都宮市/東邦銀行)」。
「生命保険・銀行業界初の中層木造オフィス」という触れ込みで注目を浴びました。

実際に銀行の店舗となると、2018年に農林水産大臣賞を受賞した「宿毛賞銀信用組合(高知県宿毛市)」。
こちらはCLT工法を採用した日本で初の金融機関です。

2019年には枚方信用金庫(大阪府枚方市)の家具町支店。
その後、大和田支店(大阪府門真町)と、カフェや勉強場所併設の木造店舗が生まれました。
地域の住民に広く開かれた、開放的な店舗となっているようです。

2020年には、静清信用金庫(静岡県静岡市)が県産材を使った木造店舗をオープン。
木造を採用した理由として「環境への配慮と地元産の建材の利用」を目指したとのことです。

2023年には、鹿沼相互信用金庫(栃木県鹿沼市)が今市支店を開業。
こちらは「地域貢献として鹿沼と日光産のヒノキやスギを多量に使う木造店舗」としたとのことです。

そして今年2025年6月、しののめ信用金庫(群馬県富岡市)が若宮支店をリニューアルオープンしました。
これまでの若宮支店はというと、これまでのよくある銀行という外観でした(Googleマップより)。

新店舗は木造の平屋建て。
見たところ、入り口付近にはブラックのガルバサイディングを採用しているようです。
グレーのタイルとともに、スタイリッシュな外観に生まれ変わりました。

見た目が変わっただけではなく、「建築コストを鉄筋で建て替える場合と比べ大幅に圧縮」することができたとのこと。
今後もこうした木造の1階建て店舗を広げていく考えとのことです。

実際の店舗まで木造化するのは、なぜ?

日本にも、木造や混構造のビルが増えています。
いくら生保金融業界といえど、オフィス部門ならば木造でも抵抗は少なそうです。

とはいえ、金融機関の店舗となると …
あえてこれまでの常識とはかけ離れた「木造」を採用するのはなぜなのでしょうか。

複数の記事で取り上げられている内容から浮かび上がってくるのは、第一に「来客数の減少」です。
世の中、キャッシュレス化がずいぶん進みました。
ネットバンキングの普及に伴い、これまでであれば窓口に行く必要があった業務の大半が、パソコンやスマホで可能になりました。

今後の人口減少、さらなるネットバンキングの普及を予測すると、これまでの店舗数を維持するのがますます難しくなってきそうです。

こうした状況で銀行が今後強化していきたいのが「相談業務」。
資産運用やローン、融資、保険、DX、人材派遣など、銀行が行う業務は幅広いです。

これまでの銀行に求められてきた「威厳と格式」よりも、親しみやすさや入りやすさ。
「厳重さ」よりも明るさと開放感。

銀行に求められる役割とイメージは進化しているようです。

イメージに加えて切実な理由も

こうした求められるイメージに加えて、もっと切実な理由もあるようです。

来客数の減少に伴い求められる経費削減。

上記に、しののめ信用金庫若宮支店の例をあげましたが、ここでの木造の利点は、というと。
大幅な建設費の削減と、工期の大幅な短縮が達成できたとのことです。

こうした実例が広まっていくと、今後ますます木造の金融機関の店舗が増えていくかもしれません。

「環境への配慮」と「地域貢献」も

いくら建設費が削減できるとはいえ、経費削減目的で木造を選択した、というのも少し世知辛すぎるような気もします。
もちろん木造のメリットはそれだけではありません。

上であげた多くの金融機関が、木造のメリットとして「環境への配慮」と「地域貢献」を挙げていました。

木造を選択することで、長期に渡って二酸化炭素の固定が可能。
環境に配慮した企業として、イメージアップにもつながるかもしれません。

他に地元産の木材を使用したり、地元の高校生とコラボしたり、建物を地域に開放したり。
こうした事例も見られました。

さいごに

来店数の減少、コスト削減、そして環境への配慮。
かつては「重厚感」が求められた銀行建築も、今では「開放感」と「親しみやすさ」をまとう時代に。
こうした木造店舗の流れは、金融業界にとっても、建築業界にとっても、新しいスタンダードになっていくのかもしれません。


参考記事

「しののめ信用金庫が木造平屋の改装店 建築コストを大幅に圧縮」、『日本経済新聞』、2025年6月16日
「鹿沼相互信用金庫、新店舗の耐力壁に伝統工芸の組子活用」、『日本経済新聞』、2023年3月28日
「静岡の静清信金、県産材使った木造店舗 19日に開業」、『日本経済新聞』、2020年10月14日
「枚方信金、カフェ併設の木造店舗 占いコーナーも」、『日本経済新聞』、2019年12月7日