今後、銀行が「経済的残存耐用年数」を見るようになってくるかもしれないという話が一部で話題になっています。
日本経済新聞も2026年4月5日に「経済的耐用年数」について取り上げた記事を発表しました。
東急不動産「再生建築」特化のファンド設立 築古物件の流通促す – 日本経済新聞東急不動産は建物を解体せず改修する「再生建築」に特化した国内初のファンドを設立した。中東情勢の影響で建材が値上がりする中、www.nikkei.com
第三者機関が市場で価値を保てる期間を算定する「経済的耐用年数」は再生建築で約60年延びた。
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これまで旧耐震基準の築古物件は資産価値が評価されにくく、融資や売却のハードルが高かった。
これまで、不動産投資の際の融資では、主に「法定耐用年数」が問題になってきました。
もし今後、本当に「経済的耐用年数」が重視されるようになってくると、今後、不動産投資の世界の常識が大きく変わる可能性が出てきました。
今回はこの「経済的耐用年数」についてまとめます。
不動産の「法定耐用年数」とは
税金を計算するための基準
「法定耐用年数」とは、税金を計算するために国が決めている「目安の年数」のことです。
不動産でいえば、たとえば木造の住宅用の建物であれば22年、鉄筋コンクリート造の住宅用の建物であれば47年といった具合に、構造ごとに年数があらかじめ決められています。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf
これは、「その年数で建物が使えなくなる」という意味ではありません。
あくまで、減価償却といって、建物の取得費用を何年に分けて経費計上するか、その基準として使われるものです。
つまり、税務上のルールです。
実際には、木造でも22年以上使われている建物はいくらでもありますし、逆にそれより早く使われなくなる建物もあります。
あくまで一律の基準であって、個別の建物の状態や立地、使われ方までは反映されていません。
「法定耐用年数」が銀行の融資判断のひとつ
ただし、不動産投資の世界では、この「法定耐用年数」がそのまま銀行の融資判断に使われることも多く、結果として「築年数=価値」というような見方が広がってきました。
不動産投資セミナーなどでも、「法定耐用年数」を根拠に「RC造がいい」「木造なら節税」などのように説明がされているようです。
とはいえ、不動産投資の場合、どれだけ融資を受けられるかというのも大きな判断材料のひとつです。
銀行が「法定耐用年数」で融資の判断をするなら、それに従わざるを得ないというのがこれまでの状況です。
不動産の「経済的耐用年数」とは
第三者機関が算定する「収益が成り立つ期間」
不動産の「経済的耐用年数」とは、その不動産が市場の中で、経済的な価値を持ち続けられると見込まれる期間のことです。
つまり、「あと何年、この建物で収益が成り立つか」という考え方です。
ここでポイントになるのは、単に築年数だけで決まるものではないという点です。建物は時間とともに劣化し、メンテナンスや修繕の状況によって状態は大きく変わります。また、設備更新や修繕コストも収益性に直接影響します。
たとえば、修繕費がかさみすぎてしまえば、家賃収入があっても利益は残りません。そうなると、物理的には使える建物でも、経済的には価値があるとは言えなくなります。
逆に、適切に手入れされ、設備が更新されていれば、築年数が古くても安定して収益を生み続けることができます。
つまり「経済的耐用年数」は、建物がいつまで「使える」かではなく、いつまで「お金を生む資産として成立する」かを見る考え方です。
これは、「法定耐用年数」のように国税庁による明確な基準があるわけではなく、あくまで、第三者機関が市場で価値を保てる期間を算定します。
銀行も方針転換かも
昨今、特にRC造、SRC造の建物で、築40年を超える分譲マンションが増えてきましたが、変わらずに活発に取引がされている現状があります。
また、都心部のオフィスビルなどでは、築50年を超える建物も多くありますが、きちんと管理されている建物では、多くが入居中であることも珍しくあありません。
きちんと管理運営され、収益も上げているのに、「法定耐用年数」を根拠に価値が評価されないのはおかしいともいえるかもしれません。
また、これからの10年間で、40年、50年を超える建物がさらに増えてくることが想定されます。
建設費の上昇が続く昨今において、これらの建物を建て直すハードルはさらにあがりそうです。
とはいえ適正に管理するにもお金がかかります。
売却を検討するにしても、銀行ローンにおける「法定耐用年数」の壁が立ちはだかるかもしれません。
銀行側としても、新しい建物が建ちにくくなっている時代に、方針転換の必要性に迫られているのかもしれません。
誰が判定するのか・判定の明確な基準はどうなるのか
「第三者機関」が判定するとのことですが、今後「経済的耐用年数」が広く取り入れるようになっていった場合、どのような展開が想定されるのでしょうか。
2015年と少し前になりますが、ヒントになりそうな記事を見つけました。
近畿の不動産関連団体、中古住宅の評価公開 取引活性化狙う – 日本経済新聞近畿2府4県の宅地建物取引業者や不動産鑑定士などで構成する近畿不動産活性化協議会は2016年1月、中古住宅の取引活性化に向www.nikkei.com
近畿2府4県の宅地建物取引業者や不動産鑑定士などで構成する近畿不動産活性化協議会は2016年1月、中古住宅の取引活性化に向け、売買する建物の耐用年数や市場価格を明示する「住宅ファイル制度」を開始する。
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宅地建物取引士が物件調査書、建築士が建物診断や瑕疵(かし)保険調査(耐震診断などはオプション)、シロアリ防除業者がシロアリ診断報告書を作成し、不動産鑑定士がこれらを基に報告書をまとめる。
近畿の事例では、宅地建物取引士、建築士、シロアリ駆除業者、不動産鑑定士などの専門家チームによる調査で評価するとのことです。
客観的な評価となると、物件の調査と建物の評価が最低限必要になりそうなのはもちろんですが、今後、評価のルールのようなものはしっかりと決める必要がありそうです。
思い出される「かぼちゃの馬車」事件の頃のこと
2010年代後半、複数の金融機関による不動産融資の不正が明らかになりました。
一部の金融機関による預金残高や年収証明書類の改ざんといった問題に加え、家賃保証の停止によって返済が立ち行かなくなり、自己破産に至るケースも報じられました。
当時は、融資を伸ばすことが優先される中で、本来確認されるべき返済能力や事業性のチェックが十分に行われていなかったとされています。
とくに投資用不動産では、「家賃が入る前提」で計画が組まれ、その前提自体の妥当性が十分に検証されないまま融資が実行されてしまうケースも少なくありませんでした。
この当時、特に話題になった「シェアハウス」だけではなく、さらに、一部の金融機関で行われた「独特な審査手法」についても問題になっていました。
一部の金融機関で、築古物件に融資しやすくするため『第三者機関の協力を得て算定した不動産物件の「経済的耐用年数」に基づき融資する手法』により融資期間を決めることで、融資を急拡大させた事例が話題になりました。
この手法により、築古物件の開発プロジェクトや、古民家再生プロジェクトなど、既存の不動産評価基準では融資が難しかった案件にも道を開きました。
金融機関としても、融資先を増やすことが可能になりました。
当時は評価もされ、ここまでは良かったのです。
ところが、一部の職員や支店は、徐々に、融資しやすいように、「期待する耐用年数」を第三者機関に示唆するようになっていったようです。
これにより、本来であればしっかりと審査をしなければならなかった、「いつまでお金を生む資産として成立する不動産か」の評価が正しくされなくなっていきました。
今後、「経済的耐用年数」が重視される時代になるのであれば、この当時の教訓をしっかりと生かしていく必要がありそうです。
一部の金融機関や第三者機関で不正があると、一気に流れが変わってしまう可能性があります。
また不幸な事例を増やさないためにも、きちんとしたルールづくりをお願いしたいものです。
誰が費用を負担するのか
「第三者機関による評価」が一般化すると、当然ながらそのための鑑定費用やインスペクション費用が発生します。
近畿の事例では複数の専門家がチームになって評価するとのことでしたので、それなりの金額になることが想定されます。
もし価格競争となると、中には杜撰な評価をするところも出てくるかもしれません。
これが数十万円単位になる場合、小規模な木造アパートの売買において誰がそのコストを負担するのか(売主か買主か)、あるいは融資手数料にのるのか、そのあたりの整理も待たれるところです。
不動産投資の世界に与えるインパクト
「売却時のアドバンテージ」と「残存耐用年数」とは
ここで、この「経済的耐用年数」が不動産投資の世界に与えるインパクトについて考えていきたいと思います。
売却時のアドバンテージを考えて「木造はやめたほうがいい」「鉄骨造がいい」などの説明をする不動産投資セミナーが多くありますが、この説明が成り立たなくなる可能性が出てきました。
金融機関の融資審査では、物件の「残存耐用年数」が重視されてきました。
ここでいう「残存耐用年数」とは、「法定残存耐用年数」を指します。
これについて少し説明します。
「法定残存耐用年数」とは、すでに建っている建物に対して使う言葉で、シンプルに言えば「法定耐用年数」の「残りの期間」です。
先ほど「法定耐用年数」によって、木造の住宅用の建物であれば22年、鉄筋コンクリート造の住宅用の建物であれば47年といった具合に、構造ごとに年数があらかじめ決められていると書きました。
たとえば、木造の住宅用の建物の「法定耐用年数」は22年なので、築10年の木造の建物であれば、残りは12年になります。
鉄筋コンクリート造で、築10年の住宅用の建物であれば、残りは37年です。
これが「法定残存耐用年数」です。
それの何が問題かというと、この「法定残存耐用年数」が、そのまま融資の返済期間の目安として使われることが多い、という点です。
たとえば、残り12年と評価されると、融資期間もそれに近い年数に制限されるケースがあります。そうなると、同じ価格の物件でも、返済期間が短くなる分、毎月の返済額は大きくなります。
そうなると、返済期間中、事業としては成り立ちません。
それならば、「法定残存耐用年数」の長い鉄筋コンクリート造や重量鉄骨造が良いのではないか、という理論。これが「売却時のアドバンテージ」です。
木造が追い風を受けそう
本来はまだ十分に使える建物であっても、「法定残存年数が少ない」と評価されることで、融資条件が厳しくなってしまう。
そう、いくら木造で建てたいと思っても躊躇してしまう理由には「出口戦略」を考えた時の、この「法定残存耐用年数」の壁がありました。
一方で、実際の現場では、適切に維持管理された木造建物が長く使われている例はめずらしくありません。
それにもかかわらず、「法定耐用年数」だけで評価されることで、本来の価値との間にギャップが生まれていたともいえます。
今後もし「経済的残存耐用年数」が採用されるようになると、この躊躇してしまう理由がひとつ、なくなることになります。
建てる時のコスト面に加え、売却時の融資のつき方にも変化が出てくる可能性があります。
そうなると、木造建築にとってかなりの追い風となってきそうです。
メンテナンス状況がかなり影響しそう
今後、「経済的耐用年数」という指針が重要になってきた場合、メンテナンスの影響がかなり大きくなるかもしれない点も取り上げておきたいと思います。
近畿の事例では、宅地建物取引士、建築士、シロアリ駆除業者、不動産鑑定士などの専門家チームによる調査で評価するとのことでした。
宅地建物取引士による調査では、賃料や入居率をチェックするはずです。
内装や設備の更新がきちんとされている物件では、賃料や入居率が上がるはずなので、結果として、こちらの評価は良くなりそうです。
建築士やシロアリ駆除業者は外壁や屋根、基礎のメンテナンス、防水、設備の更新状況をチェックするはずです。
適切なメンテナンスがされていない物件では、評価が大きく下がるかもしれません。
また、評価時に、今後どれだけ修繕費がかかるかという視点も重要になるかもしれません。大規模な修繕が近いタイミングでの評価を受ける場合、収益性が一気に圧迫されることを見越しての評価結果となるかもしれません。
つまり、「経済的耐用年数」が重視される時代になると、建物の価値は構造や築年数で決まるものではなく、これまでどのように維持されてきたか、そしてこれからどの程度のコストがかかるのかによって評価が大きく変わるという可能性が出てきました。
同じ30年の建物でも、まだ十分に収益を生み続けられるものと、そうでないものがある。
その差を分けるのが、日々のメンテナンスだといえそうです。
また、コストをかけてでも「高い評価」を勝ち取るためには、日頃から修繕履歴をしっかり管理しておくといった、オーナー側の自助努力もこれまで以上に重要になりそうです。
おわりに
「法定耐用年数」による一律の見方から、「経済的耐用年数」という実態に即した見方へ。
もしこの流れが本格的に進んでいくのであれば、不動産投資の考え方そのものが変わっていく可能性があります。
今回ご紹介した「経済的耐用年数」という考え方は、まだ明確なルールが定まっているものではありません。
金融機関ごとに判断も異なるでしょうし、今後どのように実務に取り入れられていくのかは、まだ見えていない部分も多くあります。
一方で、築年数だけでは測れない建物の価値に、あらためて目が向き始めているのも事実です。
ただし、その評価がどのように運用されるのか、誰がどのように判断するのか。過去の事例を踏まえると、慎重に見ていくべき点も少なくありません。
制度やルールが整っていく過程を含めて、今後の動向に注目していきたいところです。
