「最低居住面積水準」が、ついに国の計画から外れました。

昨今、住宅価格や家賃の上昇を背景に、あえて面積を抑えた住まいを選ぶ動きが強まっている状況があります。
そこで、国土交通省はこの「最低居住面積水準」を、今後10年間の住宅政策の基本となる住生活基本計画から削除しました。

背景には、ライフスタイルや住まいの選び方の多様化により、「一律の最低面積」を示す意義が薄れてきたという判断があるようです。

「最低居住面積水準」とは

国が示す目安

最低居住面積水準とは、国が住生活基本計画の中で示してきた「健康で文化的な住生活を営むために必要不可欠な住宅の広さの目安」です。
従来は、単身者で25㎡、2人以上の世帯では「10㎡×世帯人数+10㎡」といった考え方が用いられてきました。

この基準は1976年、憲法25条の生存権の趣旨を踏まえて策定されたものです。
戦後から高度経済成長期にかけては住宅不足の解消が最優先でしたが、1970年代に入り住宅の「量」が一定程度満たされたことで、政策は「質の向上」へと転換しました。
その中で、住まいの質を測る指標として重視されたのが「面積」でした。

この水準は建築基準法のような強制力のある規制ではなく、あくまで政策上の目安です。
そのため現実の都市部では、この水準を下回るワンルームや狭小住宅も広く流通しており、違法というわけではありません。

当時の目安は16㎡

当初は、単身者向けの住居の場合には16㎡(風呂なし想定)であったようです。
ただ年配の職人さんたちと話していると、16㎡というのは本当に「夢みたいな広さ」というのも聞きます。
東京オリンピックの頃(もちろん1964年の方)にすでに職人になっていたり、職人見習いだった人たちによると、『「立って半畳、寝て一畳」って本当だったんだから』という話もよく聞きます。

あのフォークの金字塔『神田川』は1973年。
「三畳一間の小さな下宿」で「横丁の風呂屋」に行くので、当然風呂なし物件と思われます。
年配者に聞くと、「3畳に押し入れ付き、入り口は襖、トイレ共同」というので、今でいうシェアハウスのようなかたちで、実質の個室の広さは6.5㎡程度と想像されます。
これも「こんないいところ住めたの、金持ちのボンボンだけだったよ」と聞きます。
とはいえ、この歌では二人暮らし?と仄めかされているので、二人で住むにはなかなか厳しそうな広さです。

16㎡というと、おおよそ10畳。
これがどれくらいかというと、6畳の居室(1畳の押し入れ付き)、トイレと洗面所で1畳、キッチンと廊下、玄関で2畳、といった感じです。

これは地方から上京してきた学生さん向け、というよりも若手の社会人の一人暮らしを想定した間取りではないかと思われます。

当時の住環境や上記のような時代背景を前提にすると、国の目標として、「すべての世帯の達成を目指す」広さとして掲げるには、16㎡というのは、ある意味、現実的な数字だったのかもしれません。

あれから半世紀以上。
果たしてどうなったのかというと …。

「最低居住面積水準」の今

水準以上の世帯数の割合は東京都内でも80%近く

昨今、都心部では狭小住宅が話題になるものの、東京都内で水準を満たす賃貸住宅は78.2%(令和5年)とのことです。
平成30年には77.5%だったことを考えると、年々、割合としては増えているともいえそうです。

また、全国で見ると83.7%(令和5年)とのことなので、やはり、都心部では地価の関係で難しいという側面もあるのかもしれません。

https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/jyutaku/2023/jt23tf0013.pdf

現在の25㎡を満たさない空室物件や約35000件

現在の「最低居住面積水準」である25㎡を満たさない物件は、実際どの程度あるのか。参考までに見てみます。

ちなみに、大手不動産情報サイトSUUMOの検索条件は20㎡からとなっているので、10㎡から検索可能なホームズで統一して検索しました。

本日現在(2026年4月22日)、ホームズで広さ25㎡以内の東京23区内の賃貸住宅の募集を検索すると、34,623件ありました。

1976年の目安16㎡では。
15㎡以内では3504件となっていました。
結構あります。

広さ10㎡以内となると、480件でした。
それでも結構あります。

シェアハウスでない最小のクラスとなると、占有面積7㎡前後というのが1つの目安のようです。

15㎡以内では3504件、20㎡以内では15822件、現在の水準である25㎡となると、34580件ヒットしました。
20㎡以上くらいの広さとなると、ほぼ1Kの物件となるようです。

これらはあくまでも現在募集中(空室)の数字。
実際には賃貸中(居住中)の物件がかなりの件数あるはずなので、10㎡以内も強ちレアともいえなそうです。

こうなってくると、水回りなしの「三畳一間の小さな下宿」というのも、一人で住むには、居室としてはわりとゆとりがありそうに見えてきてしまいます。

「面積」で住まいの「質」は測れない時代に

最近は、住宅価格や家賃の上昇を背景に、あえて面積を抑えた住まいを選ぶ動きも強まっているようです。
都内では9㎡程度のワンルームに住み、家賃を抑える代わりに立地や趣味にお金を使うといった暮らし方も成立しています。
外部のサービス(コインランドリーやトランクルーム、コンビニなど)を活用することで、住空間そのものを小さくするという発想も一般的になってきました。

こうした生活の仕方も豊かであるはずで、一概に面積で「質」を測れない時代になってきています。
少なくとも、「広ければ豊か」という単純な話ではなくなっています。

人気設備を実現するには一般的には20㎡以上かも

最近の人気の設備といえば「バストイレ別」、「屋内洗濯機置き場」などがありそうです。
15㎡以下となると、「バストイレ別(浴槽付き)」を実現するのは難しくなるようで、いわゆるユニット「3点セット」または「トイレ+シャワールーム」の物件が一気に増えます。
また、「屋内洗濯機置き場」がない部屋も多い印象です。
あるいは、後から無理やり設置したのかな?という印象のお部屋も増えます。
こうしてみてみると、15㎡と20㎡の間の5㎡の差はかなり大きいようです。

「水準」としての今後は

もっとも、完全に考え方が否定されたわけではありません。
今後も「技術的助言」の位置付けとして使われるほか、住宅の広さが極端に偏らないよう、市場の動向は引き続き注視するとされています。
また、有識者の間でも、基準を外すことで狭小住宅に偏る可能性を懸念する声は出ています。

不動産投資家としてはどうするべきか

都市部では狭くても需要があるのは事実

職場と住居の距離が近い「職住近接」。
こちらの手堅いニーズは引き続きあるそうです。
通勤時の満員電車や長時間通勤で、職場に着くまでにへとへとになってしまう、という声は多いです。
職場と住居が近ければ、退勤したらすぐに家に帰り、ゆっくり休んだり趣味などに時間を使うこともできます。
その分リフレッシュできれば、体力も気力も温存できるかもしれません。

特に若い単身者向けの住居ならば、少し高くても、少し狭くても、職場の近くの都心に住むというのは重要な選択肢の1つとなりそうです。

都心にある「狭い家」だけが求められているわけでもない

こうなると、「これからは投資向け狭小住宅だ」というような意見が増えてくるかもしれません。
しかしながら、一概にそうともいえないようです。
以前、こんな記事を書きましたが、昨今、広い部屋を求める人も増えているようです。

不動産賃貸仲介のハウスコムが引っ越しで最も重視する点を調べたところ、25年の調査では「広さ/間取り」との回答が14.8%と前年(8.7%)から伸びたとのことです。
SNSなどを見ても、限られた空間を工夫して使う事例より、比較的ゆとりのある住空間やこだわりのインテリアを紹介するコンテンツが目立つようになってきました。

コロナ禍で増えた在宅勤務が、その後一定数、定着したという側面もありそうです。
通勤が毎日でないなら、職場から少し遠くても、空間的にゆとりのある場所に住みたいと考える人もいます。

これからの住まいは

では、これからの住まいについてどう考えていけば良いのでしょうか。
今回、「最低居住面積水準」は計画から外れましたが、「最低限の住まい」という考え方そのものがなくなったわけではありません。
むしろ、その「最低限」が、人によって大きく変わる時代になった、というのが実態に近いのかもしれません。

毎日通勤する人にとっては、多少狭くても職場に近いことが価値になるかもしれません。一方で、在宅時間が長い人にとっては、面積の広さや間取りのゆとりの方が重要になるかもしれません。

料理が好きな人にとっては、キッチンの大きさや使い勝手が重要になるかもしれませんし、またその逆もいます。

以前、こんな記事も書きました。

つまり、同じ25㎡でも、人によって広さも設備も、「足りる」「足りない」がまったく違うということです。

建築の現場でも、面積そのものよりも「どう使えるか」を重視する場面が増えてきたように感じます。
例えば同じ20㎡でも、水回りの配置や収納の取り方、家具の置き方で、体感としてはかなり差が出ます。

逆に言えば、面積を少し広げるよりも、使い方や設計の工夫の方が、住み心地に影響することも少なくないのかもしれません。

不動産投資の観点で見ても、「狭いから取れる」「広いから強い」といった単純な話ではなくなっていルようです。

都心の狭小物件には一定の需要がありますが、それはあくまで「立地」「価格」「ライフスタイル」とセットで成立しているものです。
条件が少しずれるだけで、選ばれにくくなるリスクもあります。
20年後や30年後に、どういった住まい方がトレンドになっているかわからない、という側面もあります。

おわりに

「最低居住面積水準」が示していたのは、本来、「これくらいは必要だろう」というひとつの目安でした。
ただ、その目安がなくなった今、住まいはより自由になったとも言えますし、同時に、「何を優先するか」を自分で選ぶ場面が増えてきたとも言えそうです。

その意味では、「最低居住面積水準」がなくなったこと自体よりも、それを前提にしなくても成立する住まい方が増えていることの方が、変化としては大きいといえるのかもしれません。