昨今、ホテルと従来の住宅の中間にあたる市場に注目が集まっています。
「住宅以上、ホテル未満」。
そんな今話題の新たな市場について取り上げます。
住宅以上ホテル未満の市場が注目を浴びている
ホテル寄りが「アパートメントホテル」
「住宅以上ホテル未満」といえば、以前、「アパートメントホテル」についての記事を書きました。
「アパートメントホテル」とは、客室内にキッチンや洗濯機、調理器具といった、生活の場であるいわゆるアパートのような設備を備え、数日から数週間の滞在を前提としたホテルのことを指します。
この「アパートメントホテル」は、「住宅以上ホテル未満」のうちでも、ホテル寄り。主には訪日客をはじめとした、観光目的で数日から数週間グループで滞在する人をターゲットにしたものです。
多くの自治体で民泊の規制が厳しくなっている中、旅館業の申請をしてアパートメントホテルとして運用をするパターンも増えているようです。
住宅寄りが「フレキシブルリビング」
「フレキシブルリビング」とは、家具・家電付き、光熱費込み、インターネット料金込み、1カ月から2年未満の中長期滞在を想定した賃貸住宅のことです。
日本経済新聞でも、4月24日、25日と連続で取り上げられていました。
アジアで滞在型賃貸 三菱地所、シンガポール社買収 – 日本経済新聞三菱地所は、アジアで中長期滞在型の賃貸マンションを運営するシンガポール企業を買収した。家具・家電付きで契約期間が柔軟な賃貸www.nikkei.com
三菱地所、家具付き賃貸のシンガポール社買収 中長期滞在で海外開拓 – 日本経済新聞三菱地所は、アジアで中長期滞在型の賃貸マンションを運営するシンガポール企業を買収した。家具・家電付きで契約期間が柔軟な賃貸www.nikkei.com
この「フレキシブルリビング」は「住宅以上ホテル未満」でも住宅寄り。
日経でも取り上げられている三菱地所の「フレキシブルリビング」は、おしゃれな中長期滞在の賃貸住宅だけではなく、入居者限定の交流イベントや、さまざまな体験なども提供しているとのこと。
さらに、記事にはこんな記述もありました。
入居者の約8割は企業の駐在員や留学生などの外国人が占め、稼働率は9割を超える。
[ …]
フレキシブルリビングは高い収益性が見込める。ホテルより割安な一方、需給や滞在期間により通常の賃貸マンションと比べ2倍程度の家賃になる場合もある。
日本経済新聞、「三菱地所、家具付き賃貸のシンガポール社買収 中長期滞在で海外開拓」、2026年4月24日
実際に住んでいるのは、現在は駐在員や留学生などの外国人が大半とのことですが、高い収益性と高稼働率を維持しているとのこと。
このため昨今、投資事業のひとつとしても、この事業形態が話題になっているようです。
「マンスリーマンション」とは何が違うのか
こうした「フレキシブルリビング」つまり、家具・家電付き、光熱費込み、インターネット料金込み、1カ月から2年未満の中長期滞在を想定した賃貸住宅、という説明を聞くと、「これはマンスリーマンションとは何が違うの?」と思われる方も多いかもしれません。
1980年代以降、ワンちゃんやねこさんが出演していたテレビCMなどを通じて広く知られるようになり、単身赴任や長期出張の会社員向けの住まいとして定着していった印象があります。
ただ、当時のマンスリーマンションは、どちらかといえば「短期間、必要最低限に住む場所」という性格が強かったように思います。会社の経費で利用するケースも多く、内装や設備の魅力よりも、価格や利便性が優先されていました。
そもそも、今のようなSNS時代ではなく「素敵なお部屋」という概念は今よりずっと弱かったと思われます。
現在でもウィークリーマンションやマンスリーマンションは多く残っていますが、当時のイメージで、長く住むにはちょっと味気ない内装と設備というイメージが先行してしまっているところもあるかもしれません。
また、従来のマンスリーマンションでは、いわゆる交流会のようなイベントなどはありませんでした。
「シェアハウス」とは何が違うのか
家具・家電付き、光熱費込み、インターネット料金込み、おしゃれな内装、交流会やイベントの開催。
この意味では、一部の「シェアハウス」と似たところもあるかもしれません。
シェアハウスも歴史はそれなりに古いですが、2000年代から、おしゃれな内装、コミュニティ管理に力を入れたシェアハウスが増え始めました。
また、企業の研修施設や寮をシェアハウスに転用する例も増えてきました。
「脱法ハウス」問題や「かぼちゃの馬車」事件などで悪いイメージもついてしまったこともありましたが、現在でもさまざまなタイプの多くのシェアハウスが誕生しており、人気を集めているようです。
シェアハウスと異なる点として、「フレキシブルリビング」では、入居者同士の交流があったとしても、水回りなど設備のシェアは基本的にしません。
また、一人暮らしではなく、複数人で住むことを想定している部屋も多くあるようです。
なぜ今、外国人や投資家に注目されているのか
現場で感じる、外国人の「家探し」の切実な壁
外国人の駐在員や留学生にとって、日本の通常の賃貸住宅はかなり借りにくい。そこが大きな理由のひとつだと思います。
実は弊社にも、外国人の方からかなり多くのお問い合わせをいただいています。
一番多いのは、「借りられないので、買いたい」というご相談。
次に、「借りる交渉をしてほしい」や「借りられるところを探してほしい」というもの。
それから「借りてから住むまでの手続きをしてほしい」というものもあります。
また、いただく問い合わせの中には、管理会社とのコミュニケーションがうまくいっていない、日本の賃貸住宅の仕組みを理解していない、と思われるものも多くあります。
ともあれ正直、一番驚いているのは、「借りられないので、買いたい」というご相談の多いことです。
これから日本に住みたいという方の中には、それだけの資産をお持ちの方も少なくないということ、それだけ賃貸契約のハードルが高いということだとも思われます。
買ってしまってもいいけれど、戻るときの売却が大変かもしれない。
マンションなら管理組合などの制度が難しい。
という説明を聞いて、躊躇される方もいらっしゃいます。
保証人、初期費用、家具家電、契約期間、言語対応。
たとえ相場より高かろうと、このあたりが一気に解決されるから選ばれている、という側面もあるのではないかと思います。
私自身、複数年にわたり外国に住んでいたことがあり、外国で家探しをした経験があります。
地方都市であったため、大都市には存在する「日系の不動産屋」や外国人対応の不動産屋がなく、普通の不動産サイトや掲示板で探すことになりました。
しかしながら、当初は銀行口座を持たないこと、滞在許可証の関係で難航しました。
また、実際に内覧ができないこと、住んでから光熱費諸々でいくらかかるのかわからないこと(どうやって契約するかもよくわからない)、トラブルがないか、なども不安でした。
最終的に、日本でいえばシェアハウスのような形態の家に1年ほど住むことになりました。
リタイヤした女性オーナーが住む、大きな一戸建ての1室を借りる、というものです。
光熱費等は込み、支払いも現金払いでした。
日本の賃貸住宅との違い
文化の違いにもよるのだと思いますが、家具や最低限の家電が、はじめから備え付けられている物件が多い国や地域もあるようです。
不動産検索サイトでも、インテリアの印象がそのまま物件の魅力として伝わっているように感じました。
先ほどの三菱地所の「フレキシブルリビング」でも、サイトの部屋紹介ページを見てみると、いわゆる「間取り図」がなく、部屋の写真と説明だけになっていました。
日本の不動産情報サイトでは、間取り図があって当然です。
間取りや駅からの距離、築年数、面積など、いわゆる「スペック」を重視して物件を見る方が多いと思います。
一方で、海外の不動産情報サイトでは、部屋の写真やインテリアの印象など、「ここでどんな暮らしができそうか」という雰囲気に重きを置く側面もあるのかもしれません。
そのあたりも、外国人の入居者を想定した見せ方なのだと感じました。
日本ではまだまだ「賃貸住宅=家具なし」「2年契約」「保証会社・保証人あり」「入居時にまとまった初期費用がかかる」という前提が強く残っています。
もちろん、これはこれで日本の賃貸住宅の仕組みとして長く機能してきたもので、悪いものではありません。
しかし、海外から来た人、数カ月から数年だけ日本に滞在する人、あるいは日本国内でも働き方や暮らし方が流動的な人にとっては、この仕組みがかなり重たく感じられることもあります。
フレキシブルリビングは、そこに入り込んできた新しい選択肢なのだと思います。
単に「家具付きの賃貸住宅」というだけではなく、住むまでの手間を減らし、契約のハードルを下げ、一定期間だけでも安心して生活を始められる場所を用意する。
そう考えると、外国人の駐在員や留学生に人気があるというのも、自然な流れのように感じます。
投資物件としての可能性
投資事業として見た場合、フレキシブルリビングはたしかに魅力のある分野です。
通常の賃貸住宅より高い賃料が期待でき、ホテルほど重いサービスを必要としない。
さらに、家具・家電・インターネット・光熱費などを含めて提供することで、入居者にとっては「すぐ住める」便利な住まいになります。
固定費が確定することで、引っ越し後の生活費の見込み計算もしやすくなります。
また、賃料が高くなる理由は、単に家具や家電が付いているからだけではないと思います。
海外から来る入居者にとっては、部屋の写真を見たときに「ここで生活できそう」と感じられることも大切です。従来のマンスリーマンションのような、必要最低限の家具と設備だけではなく、一定のデザイン性や清潔感、生活のイメージが伝わるインテリアが求められているのだと思います。
つまり、フレキシブルリビングでは、建物そのものだけでなく、家具、照明、カーテン、家電、写真に写ったときの印象まで含めて、ひとつの商品になっているのかもしれません。
急遽、引っ越しをする必要のある人、数ヶ月から数年間だけの仮住まいを探している人、引っ越し費用や家具家電の購入費用を含めた初期費用に躊躇する人など、日本に住む日本人にも、必要としている人がいるかもしれません。
ただし、これは単に普通の賃貸住宅に家具を置けば成立する、というものでもないと思います。
入退去の頻度が高くなるのであれば、内装や設備にはある程度の耐久性が必要です。
家具や家電も、デザイン性はもちろんのこと、交換やメンテナンスのしやすさが重要になります。
また、外国人入居者を想定するのであれば、契約、案内、トラブル対応、生活ルールの説明なども含めて、運営体制を整える必要があります。
つまり、フレキシブルリビングは「建物」だけではなく、「運営」まで含めて考える住まいといえそうです。
おわりに
同じ「住宅以上、ホテル未満」でも、アパートメントホテルが「ホテル寄りの住宅以上ホテル未満」だとすれば、フレキシブルリビングは「住宅寄りの住宅以上ホテル未満」といえるかもしれません。
普通の賃貸住宅よりも身軽に住める。
ホテルよりも日常に近い。
でも、従来のマンスリーマンションやシェアハウスとも少し違う。
その中間にある住まいの形が、いま注目され始めています。
日本の賃貸住宅は、これまで「長く住む人」を前提に作られてきました。
けれどもこれからは、数カ月だけ住む人、数年だけ滞在する人、国をまたいで移動する人も増えていきます。
そのときに求められるのは、ただ部屋を貸すことではなく、生活を始めやすい状態で住まいを用意することなのかもしれません。
